No.002_「太陽」を観て。
この映画、制作は2004年なのに日本ではいろいろな事情で公開できなかったワケアリ物件なので、ずっとずっと心待ちにしていました。
中学の時の社会科教師が、いわゆる「赤」の人だったもので「終戦時に天皇は死ぬべきだった」なんてことを授業できかされ、私も子供だったものですから鵜呑みにしちゃって、表向きは「象徴」とされているけど、社会にとっては忌むべき存在なのか?なんて思っていたわけです。社会科の授業って表向きと裏向きの答えがあって複雑なので小学生の頃から苦手でした。
今思えばあの社会科教師(すらりと背の高い威圧的な感じの女性だった)は全共闘世代だったようで、中学生弁論大会のビデオ教材を見ていて、ちらっと浩宮(今の皇太子ですね)が映ると「ほらね、冷たい目をしているでしょ」なんて皇室への反旗をあからさまにしてたっけ。
その後、昭和崩御などあって、なんだかもうそういうことはいいじゃないか、みたいな感じになってきたものの、私は海外へ行く折に外国人から「天皇の存在理由は?」なんて聞かれたらなんて答えればいいのか。なにが一体「日本国」としての公式見解なのか。漠然としか答えられないことをもどかしく思っていた。
そこへもってきて、近ごろの靖国問題。いやほんと気の毒な方達だな。なんて今は思う。
将来への経済的不安も無く(別な意味であるかもしれないけど)優雅に暮らせるけど、生まれながらにして責任を背負い、選択の自由を持たない可哀想な方々。ソクーロフ監督も私と同様そんなふうに思っていたらしい。(やっと映画の話に入りました)
あくまでもロシア映画なので皇室に直接取材できるはずもなく、資料を元に想像だけで終戦当時の昭和天皇のプライベートを描いている。マッカーサーが嫌なヤツっぽく描かれているのもなんだか微笑ましい。
ほとんどが昭和天皇(イッセー尾形)と侍従長(佐野史郎)の会話なのだけど、この二人の掛け合い、アドリブなのか?笑えるシーンがいくつかあり(チョコレートのくだりとか)この面白さをソクーロフ他ロシア人たちは理解してるんだろうか?
もう一つ気になったこと、お客がおじいさんばっかり。 お盆休みも終わりだし朝一の回なら空いてるかな、と思って行ったのにおじいさんの長蛇の列だった。見終わった後ひとりひとりに「どうでした?」と感想を聞いてみたかった。笑うシーンではちゃんと笑い声も聞こえたし、途中で怒りだす人もいなくて本当に良かった。でもあの空襲の場面、昭和天皇がみた悪夢という設定だけど、巨大な魚(米軍機)が小魚をたくさん産み落としてそれが爆弾に、というCGになっていてとても美しい。とても美しいのだけど、周りのおじいさん達の気持ちが伝わってきて、ついつい涙ぐんでしまう。
ありえないかもしれないけれど、是非観てほしいのは、やはりあの方々でしょう。国民はあなた方のことを、こんなふうにみていますよ。いろいろ大変でしょうけれど、まあ頑張ってくださいよ。と、パンフレットで田原総一朗も言ってたように、現人神も楽じゃないって皆わかってますよと伝えたい。
そしてソクーロフの他の作品も観てみたいと思った。「モレク神」でヒトラーを「牡牛座」でレーニンを描いている、というのもなんだかすごい。特に「モレク神」ではヒトラーがアウシュビッツのことを知らなかったという設定、というのも興味深い。
それにしてもイッセー尾形は面白いねえ。

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No.001_愛についてのキンゼイレポートを観て
そもそも、この映画を観たいと思ったのはキンゼイ氏の研究への単なる好奇心からであった。
実は先日たまたま、話題の書「国家の品格」(藤原正彦著)をちらっと読んだ後だっただけに…本当は立ち読みでしかも「まえがき」しか読んでいない。たったそれだけで、この本の基本姿勢がアメリカ批判であると、なんとなくわかってしまったのです。…映画終了直後の感想は「現代社会が品格を失ったのは、全てコイツのせいだ」と思えてしまう。
とにかくやり過ぎです。人間なにごともやり過ぎは良くない。いわゆる天才と呼ばれる人々は「研究対象への人並み外れた探究心から、周りのことが見えなくなり、とかく周囲に迷惑をかけてしまいがち」というのは、アインシュタインや野口英世もそうだったらしいとか噂されているようですが、キンゼイ氏にも同様の素質あり。そういう破天荒な人って、対岸の火事と一緒で、笑って見ていられる距離があれば楽しいのだけど、友達とか、ましてや身内だったりすると結構つらいんだろうな。父親との不和はキンゼイ氏流に解決できたみたいだけど、息子との関係が後にどうなったかは描かれていなかった。「『お前の親父は変だ』と友達の親に言われた。ウチの家族はおかしいよ!」という息子の台詞も「そうだろうなー。私もこんな親父は嫌だな」なんて同情してしまう。
また、当然だけどこの映画には全くぼかしが入っていない。そんなわけで私の個人的感心は満たされ、対岸の火事的に見ても大変面白かったのだけど、「アメリカ人の品格」について、より一層考えさせられることになる。